2024/11/19 04:47
このアカデミックめが!
「立てる自画像」(1924年 大阪中之島美術館蔵)にまつわる佐伯祐三の有名なエピソードである。
意気揚々とフランスに来た佐伯祐三は半年近く経ったある日、画家で友人の里見の計らいで、パリの北に位置するブラマンクのアトリエを訪ねる。ブラマンクはマティスなどと共に活躍したフォービズムの画家だ。
祐三はブラマンクに見せるため、持っていった「裸婦」はきっと自信作だったに違いない。
しかし予想に反して、ブラマンクは「このアカデミックめが!」と一言吐き捨てるように言ったという。
その言葉は、学生がうまく書いた絵にすぎず、画家の絵ではないという意味合いが含まれていたのだろう。その言葉に祐三はひどくショックを受けたという。
ブラマンクの辛辣な言葉の後、まだ自分は何者にもなり得ていない、その焦りが見て取れるのがこの「立てる自画像」である。
何者でもない自分、顔は鋭く拭き取られている。
しかし、見方を変えれば、それでもなお画家としての自分を描いているのだ。ブラマンクに言われたあの言葉のままでは終われない、本当の画家になりたいと強く願っているようにも感じ取れる絵である。
そしてそれがきっかけで、その後次々と名画が生まれていった。